年金になる住宅

寿命と余命  

CFP 又平英樹

皆さんは自分が何歳まで生きるかということを真剣に考えたことがありますか?新聞では平均寿命が男性で78.5歳、女性で85.5歳になったと報道されています。しかし、「寿命」とは0歳の赤ん坊が何年間生きるかということであり、60歳まで元気で生きてこられたかたの「余命」はもっと長く、男性なら82歳、女性なら87.6歳です。余命は長生きすればするほど長くなります。退職してからの人生は20年以上続くのです。とても余生とは言えません。退職年齢というもののない米国では引退年齢は70歳を超えてからというのが常識です。日本一激務の総理大臣だって70歳を超えておられます。結婚までの時代を人生の第一期、その後子育てのために必死で頑張りながら退職するまでの時期を第二期とすれば、そこから死ぬまでの第三期こそが人生におけるご褒美の時期でなければなりません。

  

人生第三期と住まいと住宅のミスマッチ

  

ただここで問題になるのが「住まい」です。40歳前後でマイホームを購入したときは、通勤と子育てのことしか考えなかったのではないでしょうか。老後についても、多くの方は人生を70年程度と考え、退職してからも漠然と住み続けるのかなと考える程度だったのではないかと思います。この結果、ほとんどのシニア世代の方は、そのままマイホームに住み続けておられます。家は大抵 3LDK か 4LDK、独立した部屋の内寝室以外は子供部屋です。「毎日遅いし週末はゴルフで居ないじゃない」と奥様にいわれて書斎をあきらめたお父さんも多いでしょう。

 

さて、ようやく子供が育ちあがって家を離れ、会社勤めからも解放された。ところが、ほとんどの方は子供部屋をそのままにするか物置にされています。こういう方々に家全体のうちどの程度をお使いですかと伺うと、大抵の方が「半分程度」とおっしゃいます。一戸建ての場合平均的な延べ床面積は120u程度ですから居住面積60uということになる。物理的面積は広いのですが居住面積は結構狭い。

 

立地も問題です。通勤と通学が便利ということが一番だったのですが、もはや意味はありません。車無しには大型ショッピングセンターにも行けません。東京のベットタウンとして昭和40年代に広大な多摩丘陵を切り開いて開発された多摩ニュータウンには今70歳代を迎えてそうした「陸の孤島」に閉じこもらざるを得ない老夫婦が数多く存在しています。

 

一方でまじめに勤めてさえいれば給料は右肩上がりで終身雇用が約束された高度成長期と異なり、若年層の将来不安は高まるばかりで、少子化の最大の理由のひとつが経済的問題にあるといわれています。半分しか利用しない広い家にシニア層が不便な思いをしつつ住み続け、子育て現役の若年層が狭小住宅で我慢する。 こうした住まいのミスマッチが目立つようになってきました。

  

住みかえるという選択

 

そうした中で、テレビや雑誌で移住や住みかえのことが取り上げられる機会が見に見えて増えてきました。20年以上という長い人生の第3期。少なくとも前半ぐらい別の場所でゆっくりと、しかしアクティブに過ごそうという方々がどんどん増えてきているのです。一方、老いを感じる後半になれば、歩ける距離に何でもある都心や駅の近くに住みかえたり、娘夫婦と同居したりというニーズが強まります。雪の多い地方ですと郊外戸建てでは雪下ろしが出来なくなるといった問題も出てきます。老人健康保健施設や病院に移ることもあるでしょう。こうしてみると、人生の第3期はむしろ最低でも1回は住まいが変わると考えておいた方がよいのです。

  

シニア期とお金

 

ただ、こうしたことを実現するには先立つものが必要です。年金問題もあり老後の最大の不安はお金の問題です。もうあまり稼ぐことは出来ませんから、そこまでに築いた財産が頼りです。そこで65歳世帯の財産構成を調べてみると驚くべきことがわかります。平成16年の総務省の統計によると、預金や生命保険といった安全性の高い金融資産が3割、株式や投信、ゴルフの会員権や自家用車といったものを全部あわせて1割程度。実は残りの6割が住宅と宅地なのです。新聞が騒ぐので預金ばかりかと思うとさにあらずで、預金は全体の2割程度です。老後の不安を考えるといざというときに全財産の2割をすぐ現金になる資産で持つことは十分に合理的です。問題は6割にも及ぶ住宅です。それも大部分は別荘や投資用不動産ではなく自宅です。実はアメリカ人の場合この部分が株式・投信3割、住宅3割となっていてバランスが取れています。家が高すぎる日本の庶民はマイホームを買って住宅ローンを返すと株や投信を買う余裕はあまりなく半分以上の財産が自宅になってしまうのです。では、自宅は資産といえるでしょうか。子供部屋が空いているからといってそこだけ切り取って売るわけにはいきません。住んでいる限り資産といっても絵に描いた餅です。

 

資産としてのマイホーム

 

しかし、住みかえると決めたら話が変わってきます。とは言っても家をお金に換えようとすると売らねば成りません。多くの人にとってマイホームは自分のアイデンティティーそのものです。当面住まないからといって売ることには抵抗が大きいでしょう。さらに問題があります。実は築後20年以上の住宅は中古市場ではほとんど値が付かず、土地代だけになってしまうのです。これには理由があります。実は、戦後住宅難の中で少しでも多くの日本人にマイホームを建ててもらえるよう、建築基準法では家の耐用年数を一世代25年〜30年と想定してきました。40歳で建てたとして30年、当時の平均寿命は65歳程度だったので全く問題なかったのです。ただ、この結果築後30年目からはつぶれはしないものの維持管理にお金がかかるようになります。最近の統計では死ぬまでに追加的に合計800万円以上のお金がかかるといわれています。あと10年でそういう状況になる可能性が高いのですから誰も高くは買いません。もちろんしっかりした住宅ならもっと持つのですが、それを保証する方法がないため、良い住宅でも二束三文になってしまうのです。

 

賃貸のメリットと障害

 

では、貸したらどうでしょう。近くの不動産屋さんで貸し屋・アパートの家賃を見てください。郊外でも2DK程度の小さな部屋の月家賃が6万円から8万円程度はするはずです。3LDKの庭付き一戸建てや分譲マンションならいくら何でももう少し高くで貸せるでしょう。百歩譲って8万円でしか貸せなかったとしても1年で約100万円です。建築基準法通りあと10年しかもたないとしても合計で1000万円の収入になります。どうせうれば土地代にしかならないならそれから売っても遅くはないでしょう。住宅の耐久性や耐震性能を評価する住宅性能表示という制度があります。これで劣化性等級3(1が建築基準法通り)を取得できる住宅ですと75から90年持ちます。この3等級というのは大手メーカーの住宅なら大抵満たしていますし、良心的な工務店でも十分に対応できる内容です。この場合、単純計算だと5000万円以上の賃料収入が期待できる計算になります。土地やバイオリンのストラデバリウスを考えればわかるように、実物資産は減耗しないものほど価値が高いのです。こうしてみると、よほど土地の価格が高い所でなければ、住宅は売るよりも貸した方が断然有利と言えそうです。

 

しかし、実際に持ち家を貸す人は多くありません。実はここにも問題があるのです。まず借地借家法という法律が借家人を強く保護しているので普通に貸してしまうと正当事由がないと返してもらえなくなります。また仲介業者に頼むと汚いままでは貸せないのである程度お金をかけてリフォームをしなさいといわれます。また大家になれば自分なら我慢した不具合も借家人から言われれば直さねば成りません。こうして結局、移住・住みかえに際しては空き家のまま放置している人が大部分なのです。

 

公的移住・住みかえ支援制度

 

こうして一昨年から始まったのが公的移住・住みかえ支援制度です。日本に住宅を有する50歳以上の方なら誰でも、移住・住みかえ支援機構という非営利機関に終身(配偶者その他の同居人と本人の両方が死ぬまで)住宅を借り上げてもらえるという制度です。機構は借り上げた住宅を主として子育て世代の方に転貸し、得られた家賃から管理費等を控除して利用者に支払います。いったん借り上げが始まればその後に空き屋・空き室になっても家賃が支払われます。このために家賃の一部(現在10%)を控除して積み立てておき原則として独立採算で運営しますが、それでも足りなければ政府の基金から債務保証を受けられることになっています。現在5億円の基金が積み立てられています。転貸は定期借家という制度を利用し3年間毎に明け渡してもらえるようにしてあるので、最長3年待てば自宅に戻ることも可能です。元気なうちは田舎暮らしを楽しんで、体が具合悪くなったり夫に先立たれたときはマイホームに戻って娘夫婦と一緒に暮らすということも可能になるわけです。但し、借りるに当たっては建物診断を行い、昭和56年以前の旧耐震技術で作られたために現在の基準を満たさないものや劣化が激しいものについては補強や最小限の補修をお願いすることになっています。

 

当初1年間は首都圏を中心に制度整備を行ってきましたが、昨年10月からは全国どこでも借り上げられるようになりました。2月21日現在で1200名以上の方が情報登録をされ、すでに借り上げ契約を申し込まれた方が130名、入居者まで決まった方が30名あります(残りは建物診断中か入居者募集中)。最初の30名の住みかえ先は海外から敷地内という方まで千差万別です。

 

特に驚いたのは、住みかえ先の購入を希望する人が多いということです。この制度がなければ空き屋にしておくつもりであった家から収入が生まれるので、この際もう一件小さな家を買おうというわけです。この4月からこういう方々を応援するため、機構から受け取る賃料に借入期間に応じ掛目(7〜9割)を乗じた金額の範囲内で返済する場合は、年金暮らしであっても、何歳からでも35年間住宅ローンが借りられるという、これまでの常識からは考えられない住宅ローン(住みかえ支援フラット35)が住宅金融支援機構(旧住宅金融公庫)から借りられるようになります。マイホームが賃料を稼いで次の家のローンを返してくれるわけです。民間金融機関は残念ながらほとんど関心を示してくれませんが、今後同様の対応をしてくれる所が増えると良いなと思っています。

 

読者の皆さんも素晴らしい人生の第3期のために、辛苦して買ったマイホームを資産として出来る限り活用して頂きたいと思います。

 

これから住宅を買う若い方々へ

 

このように、我が国では50歳以上にさえなれば、公的制度を利用したマイホームを借り上げてもらえるようになりました。そこで、これから家を買う若い方は、どうか80歳以上まで続く長い人生についても考えて頂きたいと思います。毎月のローンの返済を考えると少しでも広くて安い住宅をと考えたくなるのは人情です。でも、通常の3倍長持ちする住宅を建てるのに3倍のお金はかかりません。子育てを終えて人生の第3期になったときに、補修でお金のかかる住宅か、死ぬまで年金のように賃料が入ってくる住宅のどちらがよいかを考えて頂きたいのです。このことは今後、地球環境問題の視点からも重要になるのではないかと思います。